帯解

三島由紀夫の『春の雪』に出てくる月修寺を訪れるべく奈良の帯解まで行ってきた。
実際は月修寺というお寺はなく『円照寺』というお寺がそのモデルとされている。


月修寺に入り得度をした綾倉聡子に逢うために、松枝清顕が寺に向かう場面、

 やがて杉木立の中に入ると風はいよいよ寒く、耳に風音がはためいて来た。杉の木の間の水のやうな冬空の下に、冷たい漣の渡る沼が見えはじめ、ここをすぎれば、さらに老杉は鬱蒼として、身にふりかかる雪もまばらになった。
 清顕はただ次の足を前へ運ぶことのほかには念頭になかった。彼の思ひ出は悉く崩壊し、少しづつ躙り寄ってゆく未来の薄皮を、少しづつ剥がしてゆく思ひだけがあった。
 黒門は知らぬ間にすぎ、雪に染まった菊花の瓦を庇につらねた平唐門がすでに目に迫った。

自分もその場に立ちたいという衝動に駆られ実際に歩いてみた。

 
門前

黒門                                       

平唐門

前庭
                                         
本当は雪がうっすらと積もっていると、よりその情景を思い浮かべれるのだけど・・・。
参道を歩きながら清顕はどんな思いでここを歩いたんだろう。
また、円照寺というお寺は一般には公開されていないところなので建物の中は窺い知れない
けれど、あの中で聡子さんは何を思い暮らしていたんだろうなどと思いを馳せながら
散策してきた。

門前の傍に咲いていた真っ白なすみれの花(?)が印象的だった。
まるで聡子が生まれ変わってそこに佇んでるかのようで。